演歌の神髄

2月にバイオリンの喜多直毅さんとDUOでレコーディングをしたアルバムのハイレゾ配信が始まりました。

喜多さんから、このアルバム制作のお誘いをいただいたのは2017年の秋ごろの事でした。その少し前からDUOのライブを何度かさせていただき、毎度毎度喜多さんの鬼気迫る演奏に吹き飛ばされないよう必死で楽器にしがみつくばかり、という有様だったので、DUOアルバム制作のお誘いをいただいたときは、とてもうれしかったのと同時に、これは大変なことになってしまったと思ったものでした。喜多さんの活動にはいつも注目していたし、ご自身のカルテットのライブにも何度か足を運んでいたので、その研ぎ澄まされた集中力で観客を一瞬にして自身の世界の中に引き込んでしまう圧倒的な表現には、同じ音楽家として、どうしたらこんなことができるんだろう、と、いつも多くのことを考えさせられてきました。そんな喜多さんと今の自分ではとても渡り合えない。どうしよう。この1年半は、いつもそんなことを考えて過ごしてきました。

幸いレコーディングまでそれ相応の準備期間がありましたので、リハーサルやライブを重ねてそのいくうちに、喜多さんの音楽に対する向き合い方から、多くのことを学ぶことができました。また、ライブでお世話になった松本弦楽器さんでは楽器の調整もしていただき、大きな変貌を遂げた自分の楽器からも演奏の仕方を教わったような気がします。さらに昨年には、自分のソロアルバムをリリースするというチャンスもいただき、そこで試みたことは自分の表現について改めて見つめ直す機会になったし、今回このアルバムのレコーディングにつながっていく一つのステップにもなったと思います。もちろん、この1年半、ほかの多くの共演者の方々からたくさんのことを学んだり、今まで見過ごしていたことを発見したり。音楽以外のことも含め、自分にとって、このアルバムがそれら多くの出来事の一つの結び目になったといえるかもしれません。
果たして、喜多さんのイメージした世界にどこまで自分が迫ることができたのか、ぜひ聴いて確かめていただきたいと思います。

さて、アルバムについて少しだけ。L’Esprit de l’ENKAというタイトルのとおり、演歌の精神をバイオリンとベースのDUOで表現しようというコンセプトで、選曲、アレンジをされた喜多さんは演歌のキーワードともいえる、人生のやるせなさ、苦悩に寄り添ってくれるような歌を、当初は国籍やジャンルを問わず探していたのですが、レコーディングが進むうち、自分たちが思っている以上に日本の歌が日本人である自分達に与えている影響の大きさというものを感じることになります。当初準備していたラテンやシャンソンの曲も録音はしたのですが、最終的には日本の曲を中心に収録することとなりました。
そのなかで1曲だけ、ベースソロで、グリーグの劇音楽ペール・ギュントより、ソルヴェーグの歌を収録しました。今回のアルバム制作にあたり、個人的に、たとえばクラシック音楽の中で演歌を感じるような曲って何だろうな、と考えていた時に、すぐにこの曲のメロディー浮かんできました。人間がその人生の中で、否応なく共にしつづける様々な感情がそのメロディーの中に編み込まれているように感じたのです。なので、プロデューサーのミック沢口さんから、ベースのソロを1曲収録してはどうかという提案が出た時に、迷わずこの曲を取り上げることにしました。

喜多さんがご自身のブログにてこのアルバムについてさらに詳しく紹介していますので、ぜひそちらもご覧ください。

 

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