アナログで録ること

ご無沙汰しております。だいぶ秋も深まってきましたが皆さんいかがお過ごしですか?今、松山にきています。今日はオフ日です。またも前回の投稿からだいぶ経ってしまいましたが、その後何をしていたかというと、葉加瀬ツアーのリハが始まって、ツアーが始まって、今折り返し地点を少しすぎたところです。ざっくり説明しすぎですね。でもその間にあったとても印象に残る出来事を一つ。も う2ヶ月前になってしまいますが、9月にカルメンマキさんのアルバムのレコーディングがありました。マキさんとは5年ほど前に何度かご一緒させていただい ていたんですが、昨年くらいからまた時々声をかけていただきライブをやっています。マキさんの世界は黒くて深い穴の中に入って行くようで、いつも自分の知 らない自分に出会うような感覚が強いのです。このレコーディングで僕はプロになってから初めてアナログ録音を体験しました。僕が最初にレ コーディングの仕事をしたのはまだ12,3年前のことだったと思いますが、その頃すでにこの業界では音をデジタルに変換してコンピューターのハードディス クに録音するのが普通の事になっていまして、何度録り直しても音質は劣化しないし、ディスクの容量さえあれば何時間でも録れるし、何パートでも重ねられる し、今では不可能な事はもう殆どないと言っていいでしょう。でも今回録音したスタジオでは、アナログテープ(業務用なのでカセットテープと違い、幅が5セ ンチくらいあります)に録音しました。デジタル録音との大きな違いは、間違えた部分を録り直した場合、物理的に同じ場所に上書き録音するので前の演奏が消 えてしまうという事です。ハードディスクに記録すると、前のテイクを残したまま新たなテイクを録って聴き比べる事ができます。でも間違えて演奏したところ を直すんだから消えたって別にいいじゃないかと思うかもしれませんが、逆にいうと、”直す場所”を間違えたらOKテイクが消えてしまうという事です。その 他にも違いがいろいろあるんですが、細かいことはここでは置いておきます。要するにアナログでもデジタルでもどちらもやり直しがきくんですが、その意味は だいぶ違うのです。録音ボタンを押すエンジニアの集中力は並ではないとおもいます。ミュージシャンにとっても、やり直しができるとわかっ ていて演奏するのとそうでないのとでは演奏の内容が変わってくるのではないかと思います。どちらの場合もみんなこれきりと思って演奏するし、間違える事前 提で演奏する人はいないと思いますが、やはりどうしても集中の度合いが変わるような感じがします。大袈裟に言えば、同じ50cmの幅でも普通の道路と手す りも無い吊り橋を同じ気分で歩けないのと一緒だと思います。今回はマキさん以外のミュージシャンはみな同じ部屋で演奏したので、誰か一人 の音だけを直すということもできませんでした。そんなわけで、今時なら手を加えそうなところもそのままになっているかもしれません。もちろんデジタル録音 でも音楽のジャンルとか、環境によって制限があって直せない場合もあり、そのようなレコーディングも何度か経験していますが、今回は、アナログで録ること で自分の演奏の音として聞こえないけれど大事な部分が記録されたような感覚がありました。今までのレコーディングでは味わった事がありませんでした。先輩 のミュージシャンは当たり前に経験してきた事を今更ですが経験する事ができました。ハードディスクに録音するのが当たり前になっていた自分にとってとても いい機会だったと思います。多分、アナログ録音でしか残せない演奏をしていると思います。さてこのマキさんのアルバムですが、発売がいつ 頃になるのかまだちょっとわからないんですが、この年末12/27に新宿のスペースゼロというホールでマキさんのリサイタルがあります。マキさんと縁の深 いたくさんのミュージシャンが出演します。僕も参加させていただきますので、是非お越しください。それではまた。

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